線路と思い出
番田 

昔はよく線路の横の道を歩いていた。郊外なので車両も少なく、静かな道だった。そこにはあまり誰ともすれ違うことのない道があった。僕は子供の頃からその道を歩いていたのだ。そこを最後に歩いていたのは、いったいいつだったのだろう、でも、よく思い出せなかった。時々走っていた、電車。僕は青い電車や赤い電車が走っていた線路の錆びついていた色を、今でも良く覚えている、でも、あれは別のどこかの住んだ街の線路だったのかもしれなかった。赤羽だったのかもしれないし、あるいは厚木だったのかもしれない。高校に入った僕は、同じ電車に乗って、東京方面に向かっていた。時々一人で渋谷にも遠出していたものだった。僕はブランドものの服を買って、リュックに紙袋ごと入れて持って帰ってきていた。見られて注目を浴びることが恥ずかしかったというのがある。予備校に行くための路線に乗っていると、シートの隣に座っていた男と目があったことがある。あのころクラスメートだった男で、彼はそこで映画のパンフレットを見ていた。でも、僕は映画は見なかった。彼と言葉を交わしたのはそれきりで、今頃、どこでどうしているのだろうと時々思うけれど、あまり意味がなかったし、僕は、映画はあまり見なかった。僕は今は線路沿いの物件に暮らしているのでそんなことを考えるのかもしれない。今日は暑すぎた。だから、窓を全開にしていたので、僕はそんなことを思ったのだろう。平静を保つには音がうるさすぎたのである。夏はどうなるか、先が思いやられた。先週末は川べりの道を歩いていた。そこに腰を下ろしているひとときを楽しむ時間も、もう、あまり長くはないのかもしれない。


散文(批評随筆小説等) 線路と思い出 Copyright 番田  2022-04-14 00:57:24
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