語られない常識
掴み損ねた本能
常磐色の烏が一羽、胡桃の枝から生えていた。
* * *
共感はエメラルド
しかし憧憬はすでに色褪せ
疑念は大気に溶けひろがっている
憐れかな 悲しみを持つ人
弱者ばかりを選び取るエンパスどもよ
私たちの目は正面についている
そして肉体は一人に一つだけある
* * *
醒めない夢を求めてはいけない
不愉快な夢を見ないよう願ってもいけない
紫の揺らぎ色をした兎が積み本を崩し、
ゆっくりとこちらを向いた。
* * *
紛争地域の子供、沈む島々、無戸籍のホームレス、
殺処分を待つ犬猫、絶滅を危惧される害獣、
心臓病の幼児、朽ちゆく遺跡、赤字の経営者、
ホワイトリボン、シルバーリボン、イエローリボン、
オレンジリボン、ピンクリボン、レッドリボン、
パープルリボン、ブルーリボン、グリーンリボン、
レインボーリボン、ブラウンリボン、
誰の意思に従うのかは、さておき、
いつまで貨幣は人に神を錯覚させていられるのだろう。
* * *
百四十年ぶりだという『ほぼ皆既月食』の日
私も部分月食を観賞していた
いつか図鑑で見たエメラルドのように美しい
飴玉を噛みながら
仄かに赤い月をじっと見ていた
* * *
真に追い詰められた時に備え鋭くあれ
その時がきたら、滑らかに頸を切り裂き
美しく脈動をえがけるように
* * *
ノンフィクションの
いわゆる凶悪犯は私を嘲笑うように自由で
笑っちゃうほど不自由だ
わかるよ
その衝動、憎悪、苛立ち、愉悦、むなしさ
言葉にならない思いに至るまで
生きることを肯定しないまま過ごす日々の代謝産物も
そこに溺れるのに特別な理由も技術も要らないことも
※「わかる」という言葉は多くの場合
「わかっているつもりである」という意味で使用されます。
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うすく、風が吹いている
敷居と床板の隙間
雪の少ない年越し
払う気にならない埃
払う気のない煩悩
――星が、きれいですね。
風が絶えるまで
淀みは平衡を保ち続けるだろう
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語られない常識
掴み損ねた本能
世界は私とその他で出来ている。