冬の嵐
ただのみきや

暴走

釣りの仕掛けで編み込んだ干し草の下から
濡れた小さな宇宙が瞬いて
一点の鋭い感覚の見返す素振りを隠匿する
穏やかな果実の陰影
光の脂粉ただよう傷口からは
食虫花の祈り
引き寄せる秘密の
よろめく眼差しの夜に
はたはたと肌に刺青より近く
鳥たち魚たち





ゲーム

二人の間には見えない一つのチェス盤がある
長い間そう思っていた
本当は違ってチェス盤は二つ
わたしは仮想のあなたと
あなたは仮想のわたしと
責めたり守ったり
差し出したり奪ったり
そうやって気持ちは整理され
昼と夜の市松模様
追って追われて千日手
一息で終わる時を逸して
二人の間には一つの愛があった
そんな無邪気な思い込みが夕陽のように
二つの地平にいま沈む
  




少女

真横に吹きつける氷の粒に
媼の仮面の片頬を向ける
少女の朝はまだ蒼い
立ち込める霧の中
最初の光が差し込んで
しずくがきらめき落ちるのを
夜の千切れた影が
新たな鳥に変わるのを待って
待って もう 六十余年
氷の粒が刺さった赤い眼球から
ひとつの花が開き――刹那
           怒涛の彼方



                  《2022年1月15日》









自由詩 冬の嵐 Copyright ただのみきや 2022-01-15 18:28:58
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