人さらい
塔野夏子

自分で自分をさらって
とうとうこんな処まで来てしまった

白い光に
朽ちてしまった街
建物も通りも 空までも色を失くして
そして 誰もいない
ただ乾いた星雲がいくつか
なかぞらで回っている

携えたノートに書きつけていた言葉さえ
いつしか掠れて消え去っていた

とうとうこんな処まで来てしまった
青い水底にあるようなベッドで
一晩中泣いていることだってできたのに

白い光に
朽ちてしまった街
ただ辻々に立つ標の残骸たちだけが
妙に黒々と目に映る

それらは私に
問いかけているのだ
何処を指し示せばよいのかと

自分で自分をさらった私に
勿論答えるすべはない
何処へでも 何処へか
私はただ通りすぎてゆくだけだ






自由詩 人さらい Copyright 塔野夏子 2005-04-29 12:55:44
notebook Home 戻る  過去 未来