マブイのくとぅば
わんがくい

わんは、ててんなかでもう気の腐るほど暮らしとぅ。いやんな、そいなことがいくつの年の繰り返しだか。何かが過ぎるということは、どうもわからんね。そいは猫がわんの前を何回で通って、ぐるぐる回ってを数える気もあればの話やがね。いやねもう思い出せんほど長いような気いもすんし、しない気もすんし。仏さまの結びつきもんていうのは、いつはじまるか分からんね。終わっとらんちゅうことだけならなんとなく知れども。まっすぐのびたり、意地になって縮れてみたり、時間ちゅうのはわんみたいなものには知れんもんね。よくわからん草たちがごうごうと伸びてきよると思えば、風に浮いて森の奥へ消えよる。せーたるびやん、まくぅとぅなる。みんじゅなるび、そういきみるん。やっぱりねー長いことここにおるんかもしれんよ。てての体もほうぼうでガタがきとるのか、ふわと飛ばされてしまぃみそう。かびの生えとぅるこん柔らかな布のなかももう飽きたのかもしれんね。

暮らしとぅなん言葉の使いやったのは、人いうもんの生まれる前にも、こまい繰り返しなんもんがあるということよ。なんいっても、わんはまだ生まれてもおらんのに、そん繰り返しいうのは、よう聞くような生活とは違うよ。いったら夢のようなとこもあるね。ほんまこと、ててらのような大人さまの言うことには、生活ちゅうのを知らないわらべ者どもは、そんままでは大人様のごとき者どものところで生きゆくことはできん。そいことは、そのわらべ者どもがを生きていながら、その生活ちゅうんから逃げてしまいようとするもんだからね。けども、ねえ。まだ生まれてもおらんこのわんは、現実なんもんに生きとらんのやし。やで、夢も見とるとはいえんね。わんのまぶたはいっぺんも閉まらんで、ずっとこの、ててのまぶたの裏側に広がるいろんなもんを見たり、触ってみたり、香ってみたりしとるん。現実なんもん知らんくても、ずっと立派に繰り返しとんよ。

たまにわん耳に海風みたいな声のようなもんが聞こえてきやるね。ててが歌っとるもんさね。もちろんててちゅうのは寝たまんまずっと転がっとるんから、そん歌の声は、のど震わせて響いてくるもんとは違う。てての声なんてもんは聞いたこともないしな。やで、きっとこん歌はててじゃなくて、てての見る夢が歌っとるん気がするね。ててちゅう大人さまの声にしては、こわいくらい柔らかく響きよるんよ。そいでも、わんはこん歌を聴きしに、不思議と胸のうちがすうと溶ける心地がするよ。まだ生きているとも言えんわんにとって、いのちなんもんはどんな匂いのするんとか、しょっぱいもんなんかとか、わからん。生きることに縁のないわんのような人間に、そいことをすうと頭に入れられるとは思えん。人もんが自分の死んでゆくんを頭に入れられんように、わんは自分の生きとるんを頭に入れることができんね。こん歌はその心の落ちていきそうな気のするわんにそっと身を寄せてくるもんに感じられたよ。

だからわんは、生きるというんとか死ぬんということはあまり頭に浮かばせないんよ。わんは生きているいうのと、死んどるいうのと、どうも縁の細いとこで繰り返しとる。ここにあるんは命だけね。からだはあるよ。でもいやにふわふわとして、ててのウチに居ればよいけど、うみかじの強いときには、どこかに飛んでいきよう気がして胸さ不安になる。けども、わんはその命をつないでもう何年にもなるね。わんの方から言葉さ渡して申し訳ないと思うよ。こん話がほんとうに人に通じるとは思えん。人いうもんにとって生きとるということはあんまりに本当すぎて、見えないもんさね。そいを頭んウチに入れられんのは、そいそんもんが生きているちゅうことなんね。そいなしにおることのできんものどもが、そいなしで済むもんを頭くゆらせて似せてみるなんことはできんもんよ。そいでも、こうしてわんがわんのここに居るのを声出してみるんは、わんの思うもんを伝えたいなんこととは違う。こうにして声出すことで、わんは生きるというのがどんようなことか、あとぅまのぅちにくゆらせてみたいと思うとん。ただそいだけよ。

ててはもうずっと寝たきりんまま、うんともすんとも。まぶたも開けんで夢みとる。お医者さまがあてもなく管を通しとんのよ。こんに栄養ば与えて、身体を生かすことしかできなんね。なんど、そんだけも素晴らしいことじゃいうよ、わんだけは。なんいっても、この管をとおって与えられん草や花、動物もんの汁ば、てての腹んすんどる、こんわしの栄養でもあるんね。ててと言うんも、よくぁわからんねぇ。わんとこん男とのあいだにそいな言葉がゆうような結びつきもんがあんかは、ようわからねぇ。うたいかたーはあっとるがね? ててというくとぅばが、なんに妙な魅力のあるよう思えて、思わず口からば滑り出てきやるのよ。こん喉をふるわすものが、てての腹をふるわす時がくるとすれば、わんはきっと波のように幸せに消えるんかね。響きよる。やー響きよる。わんとててと、もうじきまた長いことなんも言わずにここを漂うんにしても。ええきっと、それでよいんな。せーたるびやん、まくぅとぅなる。みんじゅなるび、そういきみるん。ひゃー、アーマンなここにきて、わんを食らう。ええよ。それももうマブイの話さー。


自由詩 マブイのくとぅば Copyright わんがくい 2021-08-29 16:01:33
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