無波動の寝床
ホロウ・シカエルボク


本当のことはとても静かにやって来る
俺がそうだと声高に叫んだりなどしない
気づいたらいつの間にかそこにいる
迷うヒマなど与えてもくれない

ハーフムーンに見下げられながら
凍えて帰った遅い夜
くだらない動きと記憶の連続で
シャワーの湯気の中で少しの間目を閉じていた
ずぶ濡れの身体を拭きながら
ふと零れたのは古い日本語のブルース
ベイビー、ベイビーって
使ったこともない言葉だけど
自然に歌えるならそれでいいじゃないか

詩集や小説のページをめくり
目についた音楽を流していると
あっという間に日付変更線が来る
悪足掻きなどさせてもくれない
下手すりゃ机で眠ってしまいそうだ
暖かいベッドで
暖かい夢を見せてよ
悪夢になるなら
せめて目覚めさせて

明け方に目覚めて
薄暗い部屋を見ている
まだ眠れるはずなのに
気の早い光が
波のように天井を流れるのを見ている

夢は暖かくも冷たくもなく
日頃の虚無から辻褄を抜いただけの
落丁本のような仕上がり
色がないのに不吉な
幾つかの場面を思い出す
それが見たかったものかもしれない
ほんの一瞬だけ
そんなことを考える

幸福や不幸なんて
思えばそんな尺度を持ったことがなかった
生きられるか生きられないか
動けるか動けないか
得られるか得られないか
そればかりで
そのどちらかばかりで
いらだちや反動で
いつも次へと懸命に飛んでいた
俺になれるか
お前は俺に
無波動の寝床は
指を突き付けてくる
俺は目を剝いて
そいつに齧りつくのさ
おはようございます
朝のラジオが言う

うるせえ
もう少し



寝かせろ



自由詩 無波動の寝床 Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-12-28 21:41:22
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