深く眠れ。もう目覚めるな。ii
竜門勇気

非常階段を登る
さっき川を一つ横切ったから
靴の中で濡れた足が変な音を立てる
まるで川底の石が擦れ合うみたいに

非常階段はやさしい
僕が涙をなすりつけながら
呪詛をつぶやいたあの日も
ただ冷たく固く血の匂いがしてた

深く深く深く息をしろ
眠る眠る眠るふりをして

深く深く深く
目覚めるな目覚めるな

塩でできた胸像は
時を煮詰めて焦げるカラメル
水の中で呼吸が楽団をなす
アブクの内側で音が色になる

地上は苦い 光は眠たい
気持ちのいいことを使い尽くした
人間の間にやれることはもう終わった
そんな気分がどこかにあった
そういう驕りで今は生きていく

深く深く肺を広げて今
眠ることに無理がある今
息が続く限り深く眠る
泥でできた完成品を手に取る

水がどこまでも流れていく
心ん中で冷たい泉が湧いて
僕の手を離れた後に
ただ当たり前の重力にひかれて流れてく

ここからじゃ途中までしか見えない
でも視界から消えるまではなんだか目を離せない
すべてが消え去ったその後も
時々その行く先を夢見るんだ

深く深く眠るときに
目覚めることも忘れそうな
その眠りのさなかに



自由詩 深く眠れ。もう目覚めるな。ii Copyright 竜門勇気 2020-12-11 02:14:27
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