岩の顔
服部 剛

岩には、顔が隠れている
口を開け、叫ぶ顔は恐そうだが
岩の本人は、そうでもなく
案外あかるい、無音の呼び声なのだ

岩と岩のつらなる下に
崩れた岩の口元から、源泉の湯は流れ
心身を温める
男がひとり

その頃、女湯では
妻と障がいをもつ幼い息子が
うっかり忘れたシャンプーを
隣り合わせたお婆さんから、借りている 

天国でも地獄でもない世の中で
日々のニュースは暗くとも
そんなに悪くはないさ、と思える場面は
今日もこの町の何処かにあり 

  ざばーん 

と、湯舟から上がった男は
お湯の出る
崩れた顔の岩に、一礼して
ゆげのぼるからだを、タオルでぬぐった  






自由詩 岩の顔 Copyright 服部 剛 2020-12-10 20:36:21
notebook Home 戻る  過去 未来