穏やかに河は流れて
及川三貴

君と見ていた 色褪せた夕暮れの焦燥は 
もう戻らないと深く 息を詰めて水に
潜るようだと理解して
それでも繰り返し 夢に見て
胸元に留まり続けた 想像の
背をずっと 撫で続けていた
例えばテーブルの片づけをしている
食器の触れ合う音で ひととき
何も思い出せなくなって
また今日も これからも 立ち尽くすのだ
どうしたの? と 
君が笑う 記憶 少しの感傷で ゆるりと引き戻された
私は 呼吸を数えて 世界を終える色を決める
たなごころ 開くさきから 漏れてゆく
いつもの優しさで この繰り返される夜を
塗り込めることができるのならば
やはりそれは 黒がいい 
儚い秒針がなぞる この形を
塗り込めることができるのならば
それは お願い神様
「黒がいい」


自由詩 穏やかに河は流れて Copyright 及川三貴 2020-09-26 21:18:38
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