夏の底
鳴神夭花

きりきりと雨の音がしている
ないはずの傷がぐるぐると呻いて
僕は笑ってしまう
きみは何処にだっているのに
まるで恋をしているように急かすのだから
いつだって
ひとは水から生まれて
ひとは水にかえるのに

僕たちはみな
水のことばを忘れてしまった

きりきりと
耳を掻き消すように雨は降るけれど
いつまで経っても二足歩行で
誰も信じてはくれないんだ
僕たちはみな
おんなじであったこと

あわぶくのなかに
いのちがあったこと

この尾鰭はきみにみえるかな
僕に少しは似合うかな
まだすこし
時間はかかるだろうけれど

この喉はきみに
持ち帰るためのお土産を探しているんだよ


自由詩 夏の底 Copyright 鳴神夭花 2020-08-29 21:05:17
notebook Home 戻る  過去 未来