ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 19 20
ジム・プリマス

19
 有能なビジネスマンがみんなそうであるように、事態を呑みこんだアルバートの判断は早く、的確だった。彼はメモを取り出して、退職や失業保険の手続きなんかに必要な書類のリストを書き出すと、事務に行って、その書類をもらってサインをするようにエルウッドに言い、小額だが退職金が出るので、その振込みの手続きを済ましておくとエルウッドに伝えると、最後にこう言った。
「日本から帰ったら必ず、連絡をくれよ。とにかく身体には気をつけてな。」親指をグイっと突き出すアルバートに答えてエルウッドも同じように親指を突き出して「ああ、またね。」と言ってエルウッドは所長室を後にした。
 アルバートから指示された手続きを済ませてから、工場を後にしたエルウッドだったが、妙にすっきりした気分だった。後は銀行に行って当面、必要な金をおろしてから、部屋を片付けて、明日には旅立つつもりになっていた。でもそうは問屋がおろさない。それが、神の使徒の運命だ。気まぐれな神様とジェイクが手を結んでいるのだから、無理のないことなのかも知れない。このあと銀行に行ったエルウッドはそのことを思い知ることになる。

20
「ちくしょう、やられたよ。」両手を広げていまいましそうにエルウッドは毒つく、それでも気が収まらない「まいったよ。このヤロー。」とつづけて今度は頭を抱えた。人の好いエルウッドだけど、今度ばかりは頭に来ていた。
 アパートに戻る途中で銀行のキャッシュ・ディスペンサーによって当面、必要な金を下ろそうとしたら、見覚えのない引き落としが、この最近、二度にわたってあり、五万五千ドル近くあった預金の半分以上が引き落とされていたからだ。
 それでも、東京までの往復の航空機のチケット代とか、ニューヨークに行くまでの旅費とか、大家のマギー叔母さんに三か月分の家賃を支払ったとしても、半年やそこらは生活するだけの生活費には十分の額は残っていたのだけど、これじゃ、孤児院に寄付をするどころではない。
 もったいないのでめったにやらないことなんだけど、エルウッドは表通りでタクシーを拾ってシカゴ・セントラル・バンクの本店に向かった。この二度の引き落としが、どういうことなのか確かめるつもりだった。
 


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 19 20 Copyright ジム・プリマス 2020-08-12 08:43:03
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