痺れながら
ただのみきや

毛羽立つ絵筆の雑木林を越えて
厚い雲が寄せて来る
足元に暗い犬を従えて
息のしかたを忘れた大気
鳥たちは問う
振り返り母の顔を仰ぐ幼子のように

時の切れ端に速写した
景色に映り込む影は
四十万にしゃがんで小石を拾う
濁ったみどり色
熱を失くした悲しみをこめかみへ
いつか指先で潰した蕾の生臭さ

にわかに斜面の笹を揺らして
舞う風の姿態
ざわめきを纏う空ろの演者
ふっとはだけた静けさは
抱き寄せようにもすり抜けて
捉まえようにもおき去られ

背中から砂になる
あわてて内ポケットから取り出しても
頭で溺れ天空へと真っ逆さま
釣り針に絡まった水鳥のよう
視線という視線が食い込んで
死を抱卵する暖流と寒流




               《2020年4月25日》








自由詩 痺れながら Copyright ただのみきや 2020-04-25 19:54:38
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