喜劇王への手紙 ―追悼・志村けん―
服部 剛

名優・志村けんが
舞台の裏へいってしまった
人生はコントという名の
夢であるように

今もこの世にいると錯覚しそうな
あなたのコントを観る夜
僕は思わず、くすっと笑い
手にしたグラスの氷もからりと、鳴った

ある番組のテレビの中には
娘の彼氏の外国人に戸惑いながら
穏やかに酒を注ぐ
父親役のあなた

ある番組では
息子のように可愛がった猿のパン君が 
東京へ帰る後ろ姿を追いかけて
名残り惜しくも抱っこするあなた

人も猿も分け隔てなく 
同じ目線で接するあなたは 
ゆっくり育つダウン症児の息子に悩む僕に
大事なヒントを残してくれました

テレビを消した、僕は
お笑いのヒーローがもういないことを
寂しく思い外へ出て
すでに日付の変わった
満月の夜をそぞろ歩いた

――加藤茶さんがテレビで弔辞を読んだように
  今頃、あちらで再会したいかりやさんと
  一杯やっているのでしょうか

寂しげに歩く僕の
かなしみをほぐそうと
電信柱の影から
白ぬりのバカ殿はあらわれて
――だいじょぶだぁ
の、あの声が 
葉桜の風にゆれる
今宵の空に響きます 

サヨナラするのはつらいけど
時間が来たから、また会う日まで

明日の夜も、僕は息子を寝かせつつ
――だいじょぶだぁ
を繰り返し、そっと頭をなでるでしょう 



 追伸:日本を代表するコメディアンの志村けんさん、
    僕が子供の頃から、たくさん笑わせてくれて、
    ありがとうございます。あなたの命を決して無駄にせず、
    コロナの状況を必ずや皆で乗り越え、その後の日々で、
    あなたの優しさと笑いが人々に語り継がれてゆきますように。  






自由詩 喜劇王への手紙 ―追悼・志村けん― Copyright 服部 剛 2020-04-10 21:41:10
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