言葉のボール
服部 剛
特別支援学校に通う
息子が二年生の
ある夜
初めて妻に打ち明けた
ダウン症告知のあの日以来
息子について後ろ向きなことは
もう決して言うまいと
心に決めていたことを
語らう夫婦の目線の先で
おさな子の面影のまま夢を見る
息子の寝顔は
いとおしい
いとおしい、が
胸の内の葛藤は
あれから消えたわけじゃない
言葉のボールを息子に
投げても、投げても、返らずに
ぽとり、と地面に落ちる
――息子は壁か/壁じゃない
の、自問自答の日々は
今も続く
ずっと妻を気遣い
口に蓋をしていたと
打ち明けたら
かえって妻にはよかったらしい
息子についての
深い悩みを抱えるのは
――私だけではなかった と
午前〇時過ぎ
すやすや寝息をたてて
ママの隣で眠る子よ
パパはこれからも数え切れないほど
君に言葉のボールを投げるだろう
いってらっしゃい おかえりなさい
いただきます ごちそうさま
おはよう おやすみ
ごめんなさい ありがとう
――世界にひとりの我が子よ
君が決して無言の壁ではなく
いつか〝ママ〟と言う日を夢見て
パパは明日も、ボールを投げる