とにかく帰る
竜門勇気


何もかもが一歩だけのとこで壊れた
もう忘れましょう、私には忘れることしか
実行可能性のある選択肢がない
森のある町 隙間を縫う国道
どこにでもあるようなとある街
家と社会を繋ぐ道
森のある町 反復するガードレール

接触の手前で立たれた回路は
空間を裂いてつながる
空想の中で客人を招く
奴らがする白熱の論争
結果が決まる前に
電極はショートする

かいぼりの一団も
困惑の顔を隠すことなく
ああ、なんて宇宙の広さ!
困難にラバーカップが有効であればよかったのに
バカどもめ。
詰まったフィルタ、閉じた力学
仕事が終わって帰る道のなか
俺は何者でもない
おっさんと言われても
お前と呼ばれても振り向くだろう

とにかく帰るよ

俺の住んでる町で
人が死んだ?
俺に数学教えてた
奴がシャブ中だった?
まじかよ

俺の身内が全員
COTDのメンバーだったって?
港の90%が軍事施設だったって?
どんな嘘でも思いつく

海辺の街まで
理由なくたどり着く
俺は何者でもなくて
誰にも引き止められることなく出てきた
あの家にはそんな資格があるやつがいないし
残念でした
どこかの物語にあるような友人もいなかった
ただ複雑でがっかりする話をしたくないから
わかってくれよ

とにかく帰る
とにかく帰る
家まで15分のあの道は
ろくでもねえまやかしさ
俺はあんなんじゃ
帰れない

どうでもいいことばかり
けど目を開けてなきゃ
始まったとこも終わったとこも見えない
家までの20km弱の道には
きっと楽しいこともあるはずなんだ

明日、仕事に行く理由を探してる
毎日、こいつが減らない
すこし踏み外せばやれそう
嫌いなことだけ集めた儀式でも
自分であることを捨てればやれそう

とにかく帰りたい
部屋の中に満足はしてない
すべてを買い足すために
明日、仕事に行く理由を探す

俺は何の奴隷なんだろう



自由詩 とにかく帰る Copyright 竜門勇気 2019-12-18 14:17:37
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