201912第一週詩編
ただのみきや
*
終りのないものの終わりを決める
生きることは括り閉じることの繰り返し
言葉に置き換えられた
かたちのないものが夜うっすらと発光する
夏の夢の欠片が螢なら
抗うことを止めた仮初の詩体から
ゆらりとした無言のほのめかし
区切りの無いものに区切りをつける
巡り繰り返すものの法則を探しながら
生と死の尺に無限を掛る
すべて言葉に置き換えて
粗悪な複写を加速させる
見出されたものはすべて捏造されたもの
不死の蝶の虹色のエントロピーを
延々と見つめる露光時間
**
淡いものが降り積もり
爛れた思路を慰める
冷やかな沈黙に漂う希薄な生のつぶら
顕微鏡の眼差しに
星々は定まらない姿態の脱皮を繰り返す
虚無の質量に堪え切れず
名を叫ぶ口を縫い閉じろ
さもなければ腐れ落ちろ
いつまでも薄い被膜のまま
散り積もる色やかたち
自分に悟られないよう並べて
呪詛のように唱えれば
相殺された時間から浮かび上がる女は魚のよう
見失う 一瞬の 悲痛な快
自傷的感傷
自慰的刑罰
***
常緑樹は無数の指先で風を抑えている
とめどなく渦を巻く見えない力と
立ち位置を変えずに折り合いをつける
いまは羽毛の軽さで
触れるや否や透き通る雫
それが厚く重く圧し掛かる時も来ていたが
常緑樹は切られクリスマスツリーになった
煌びやかに飾られた いつも緑の木
生きていると見なされる 生贄の死
さてどう折り合うか
****
両の指で数えられないもの
千も万も億も兆も
ひとつの名と顔を持っている
顔は意味という輪郭だけを持った三面鏡
両の手で抱えきれないものを
目で食み 耳で味わい 舌で弄ぶ
ことばは文字になって一度死ぬ
読まれる時によみがえる別のものになって
流れ去るものを引き留めようと
文字という不動の身体を与え
立ち止まって 手に取って
過去へ未来へ揺らしてみる
おもちゃの車で遊ぶ子供のように
呼び戻すもの
過去にある未来を
未来にある過去を
琥珀の中に秘められた炎のゆらめきを
時間は輪ゴムに似て
伸びるが限界はある
切って一本のゴム紐にしても
長さも伸縮度合も変わらない
円は
零
始まってないから終わりもない無
無を一捻りすれば無限大
人間を虜にした魔性の概念
数え尽くせないものへの畏怖と憧憬
零を断ち切って一
数え始めで数え終わる ただ在ることの証し
一匹のミミズに頭と尻がある
断ち切られたロザリオの果ての消失
想いを馳せる いつか帰らぬ鳥に
相反するものが溶け合って
彼岸と此岸を曖昧にする
だが覗き込めば覗き込むほど
映るのは己
プリズムのように
時計はことばの外で動いている
*****
土手沿いの遊歩道の低い並木の隙間から見える
微かにアーチを帯びた橋の水色の欄干にも
雪は薄く積もっている
ブランデーを注いだ角砂糖に火を点ける
ずいぶん昔に見た光景
青白い炎の揺らめき
時を忘れるために
誂えた時間が香っている
まだ朝は頬を染めたまま
******
その形に切り抜いて
取り残されたような雲がある
なにに似てでもなく
おかしな美のフォルムを刹那顕し
日の出の火の粉を微かに残しながら
チリチリと焦げもせず
悠然というのではなく
どこかとぼけた
モデルのように
在るように在り
成るように成り
流れるままに去って
悲しみではなく
印象だけを残す
深いものを書こうとすれば浅くなる
深みの底をつい見せたくなるから
浅いものがいい
水たまりには月が浮かんでいる
*******
わたしは矢印に沿って進まない
ミシン目に沿って切りはしない
どよめき粉塵立ち上る方へと進み
血の出る場所を無理に引き千切る
アンチじゃないがシンフォニーでもない
すべては絶え間ない明滅の裏表
一瞬をどちらで捉えたか
どちらでもいいがどちらかで振りかぶり
都度自爆する
ひとりの行進