ラストワルツ
イオン

あの時二人は
駅前の踏み切りで
電車が過ぎるのを待っていた

カンカンカンカンカンカン

「ねえ、遮断機の音って何拍子?」
「二拍子だろ」
「そうかなぁ、ねぇ、ワルツに聞こえない?」
「聞こえないなぁ」
「いい? 電車が過ぎて音が止んだとき
 わたしのタクトに合っていればワルツよ
 せいのっ
 アン、ドゥ、トロァ、アン、ドゥ、トロァ」

トライアングルを描く彼女
そして、タクトのてっぺんで音が止んだ
「ほらね」
最後まで勘のいい彼女をホームに残して
僕は上り電車に乗り込んだ

彼女がさようならと振る手が
三拍子に見えた
さよならロマン
さよならワルツ

初出:NIFTY-FCVERSE 1997/8/12 を推敲


自由詩 ラストワルツ Copyright イオン 2019-11-23 14:41:14
notebook Home 戻る  過去 未来