夏
宮木理人
燃え出したアスファルトの中華鍋のカーブが
油まみれのぼくの額を照らしている
野菜炒めのように瞬時に仕上げられた身のこなしで
逃げるように潜った自動ドアのその先は市民プールだったというわけだ
全てのリアクションを後回しにしたかのように潔く
湿ったTシャツやズボンを脱ぎ捨て僕はブリーフ一枚になった
ビート板を小脇に抱えてプールサイドにビシッと気をつけをして
冷たい水のなかへダイブ
ひらがなの丸みのように
柔らかい水は
読まれることを必要としていない
だからこそ皆はそこに漂いたがる
向こうのプールサイドには、白いワンピースの女の子がこっちを見ている
だんだんと膨張する視界に、プールサイドが遠ざかっていくように見えた
もしかするとその女の子は僕が知っている子のような気がした
覚えたてのバタフライでその子のところへ泳いでいくと
泳いでいるその時間が、ぐーっと引き伸ばされるように、なかなか向こうへ辿り着かない
やっとの思いで着いたプールサイドには
ワンピース姿の女の子が立っていた
やあ、と声をかけて見上げると
その女の子の頭はスイカに代わっていて、
それがポロッと取れて
僕の目の前の地面でグシャッと割れて真っ赤になった
すぐそばにはバケツが置いてあって
そこには花火の燃えカスがたくさん捨てられていた
誰もが夏という言葉を忘れ
季節ということも忘れ
ただただ汗をかいて項垂れていた
自由詩
夏
Copyright
宮木理人
2019-07-12 06:25:07