イジュン(泉)グヮー
AB(なかほど)

父親は帰って来なかった
隠れた墓の中に壺はあるけど
骨は入っていない


アカミチモー(赤道毛)グヮーの真ん中に
旗を掲揚する柱が立っていて
村の誰かに招待状(赤紙)が来たら
みんなが集まって送り出した
そこから嘉手納まで何時間か歩いて行く
嘉手納には軽便鉄道の最終駅があった

モーグヮーから坂道を下って
イジュン(泉)グヮーのそばには
大きな石墓が十何個かある
昔は亡くなった人を中に横たえて
三年後の骨を洗って壺に納めていた
茅葺き家よりはよっぽど頑丈

よっぽど頑丈で森の中だから
親戚集まって墓の中に隠れた
墓の上の方には
酸っぱい島桑の実があって
摘んでは食べてたら
危ないから中に入れと怒鳴られた

その翌日、墓から出ると目の前に
艦砲射撃の大きな穴が開いていた
それから隠れるのをやめて
みんなで本家の屋敷に集まり
捕虜になった
隠れたのが兵隊と一緒の壕じゃなくて良かった

米軍トラックに乗せられ平安名で降ろされて
母親の実家の平敷屋まで歩いた
そこでしばらく過ごす間
勝連南風原の米軍のゴミ捨て場でものを拾った
そのなかで、大きなチーズのかたまり
あのおいしさは忘れられない

やがて戻る場所が残ってるものは戻されて
イジュングヮーの奥の墓地の中心の空地に
臨時の小学校ができた
イジュングヮーはその時も水汲場と浴場と洗濯場で
真っ暗な時は墓から何か出てきそうで
とても怖くてまともにからだを洗えなかった

父親は帰って来なくて
モーグヮーのそばの親戚の家で世話になった
父親が嘉手納に向かった道に
米軍が分厚いコンクリートを敷いた
道から溢れたまだゆるいコンクリートを拾って
その親戚の家の塀に使った




父親は帰って来なかった
横たえることも
焼くことも
イジュングヮーの水で洗うこともなかった
隠れた墓の中に壺はあるけど
骨は入っていない











自由詩 イジュン(泉)グヮー Copyright AB(なかほど) 2019-03-20 23:41:44
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