垂乳根の月
本田憲嵩

その木製の寝台はきっと
幾度もさびしい月夜と寒波を迎えつづけて来たがゆえ
あの月の桂と同様のものに変質してしまったに違いありません
その柔かな布団はとうとう彼女の豊かな乳房となって
ぼくという冬の甲虫は 乳という名の樹液を啜り続けます


とくに雪の降る夜には 戸外の世界すらも
彼女の顔を覆わんばかりの白い乳房の雲に覆われる
そのふり注ぐものの所為で
いつまでも其処から自立できません
ぼくという名の冬の甲虫は ますます硬く悴んでしまいます



自由詩 垂乳根の月 Copyright 本田憲嵩 2018-11-28 01:29:06
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