ケン玉
……とある蛙

あの時代に街を彷徨う男は
夜の気配のする街角で
剣玉を所在なげに操る
夕暮れの街灯の下
足を組んで剣玉する男一人

街灯から降り注ぐ
まやかしの光の粒は
ぼーっとした色を男に与え
髪の中で虫を飼う
髪の毛の色は赤の碧
大きな白ぶちのサングラス
細身のズボンとハーフブーツ

およそ夕闇の街角には
似合わない剣玉

玉の色は緑で
奇妙に巧みな腕前で霊(たま)を捌く
降られた玉は宙を舞い
大皿小皿剣に収まる
だれに見せるわけもなく
玉が踊って宙を舞う
まるで何かに取り憑かれたように
辺りの闇から浮き上がって
霊が踊って宙を舞う

拡散しない光の粒に重さは無く
その空間との摩擦のみが
その重さの実体であること
それとなしに感じさせる
空間の外側にいる心の有り様は
その光の粒を取り込もうと足掻いている

街灯の下 別世界

二色に色分けされた男の身体の前で
剣玉が浮遊している
水に浮かぶ木の葉のようであったり
風に吹かれた風向計であったり

目を離した隙に、剣玉は消えて
黒と赤の二色が、街灯に反射する。

男は逆立ちして数歩
こちらに顔を向け、にやっと笑った。
そして、口から黄金の光の粒を吐き出しながら
こう言った

あっという間だったな。
あっという間だったな

俺は逆立ちに目の前にいる男に
こう言った

あっという間だったな
あっという間


自由詩 ケン玉 Copyright ……とある蛙 2018-09-03 16:57:54
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