寂寞たるは
坂本瞳子

渇いた目が疼く
ほじくり出したいほどに
なにかを言いたげで
鏡に見入って
左側の下瞼の左の辺りを
頬へと向かって三本指で
下げてはみるのだけれども
とくに変わったなにかは
見つかるはずもないといった体で
どうせならば小石の一つでも
出てきてくれようものならば
スッキリしてしまえそうなものを
なんの原因も見当たらず
疼きが解消されることはなく
この不快感は永遠に続くのでは
ないだろうかとさえ思われ
やるせない気持ちが募りもするけれど
ぶつける先も見当たらず為す術もなく
ついでと思って
右側の下瞼の右の辺りも
頬へと向かって三本指で
下げてはみるのだけれども
これまたやはり変わったなにかは
見つかるはずもないといった体で
細長い寄生虫の一匹でも
這い出てこうようものならば
スッキリしてしまえそうなものを
それらしい影も形も見当たらず
肩をいからせて
背中をのけぞらせて
頭の天辺のツムジを地面の方へと向けて
上半身を右へ左へ大きく揺らして
それから垂直に立ち直って
両の眼の下瞼を外側へ向かって
両の手の平で引っ張るように
してはみるのだけれども
やはりなにも目から出てくるものはなく
もうしょうがないからこのまま
目を疼かせたままで
眠りに堕ちてしまおうと
諦めがついた真夜中の二分前


自由詩 寂寞たるは Copyright 坂本瞳子 2018-07-31 23:41:25
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