カスケードのなかで不用意な感情は息を潜めている
ホロウ・シカエルボク
散乱した無数の接続部品は古い血液のような錆に抱かれて暴動の後の死体のように
コンフューズはすべて同調してしまっているからラジオペンチじゃどうにもならない
アーカイブの欠落を塗り潰して初めからそんな項目はなかったみたいに装ったとしても
幾つかのいびつな銃創のように狼狽えた網膜がすべてを克明に吐露してしまっている
プラスティックのいまひとつ信用のおけない光沢が乱反射する感情の元凶に違いない
消灯した部屋のなかで流れている音楽は完璧な調光と水温のなかで泳ぐ深海魚だ
バーレスク・ショーのさなかに巧妙に自死する道化師の瞳の色はたとえようがない
いついかなるあらゆるものの死因なんて解剖したところで解明されはしないのだ
侮蔑的な表現を含んだセンテンスが非難されている光景はパラノイアックの極みだ
打撲痕のような雨雲が陰鬱な独り言のように点在する真夜中の空はそんな現象の絵画だ
アルコーブに陳列された土塊にまみれたふたつの生首の口腔はぼんやりと開いていて
その無意味な穴から零れてくる無数の奇妙な音符を五線紙に貼り付けて辻褄を合わせる
ブカレストの広場で張り詰めた舞を続けているバレリーナのどうしようもない絶望
蓄音機はいつだってお前の望むように滑らかに針を滑らせてはくれなかった筈じゃないか
喀血のような睡魔が突然に脳髄を沈黙させようと執拗に画策するのを忌々しく思うし
サイドテーブルに置き去られた古い名前が記された封書は多分開かれることはないだろう
ユトリロの肖像画がおそらく明確な意思をもって神経症的にこちらを監視している
ハルシオンが幸福な夢を見せてくれるってまだ十五歳のあの子は本気で信じていたんだ
ガンコントロールが覚束ない辺鄙な場所の方がきっと風通しは申し分なく良いはずさ
百日紅の花言葉にもたれて暗い細胞の死滅する音に耳を傾けているからまだ眠れない
ドレンチューブのなかに残された幾つかの詩篇が惨劇の原因を事細かに教えてくれるから
キャンパスノートは呪文のような記録項目の数々で黒く塗り潰されて机の隅でこと切れる
聴力検査の微細音のようなノイズが聞こえ続けているのはきっと肉体的な要因じゃなくて
洗面台はいつでもなにかを強引に拭い去ったような痕が薄っすらと残されているだけで
カードを奪い合う遊びのなかに針のように差し込まれたカオテックな欲望の粘度の高い涎
そして雨はモノトーンの映画に映る血だまりのような景色を夜のなかに残して消え失せ
泳ぎ続ける音楽だけがただ察しのいい友人のように尾びれを翻しながら時を繕うのだ