逆襲
ただのみきや
長い冬の間ハリネズミの毛皮のコートを着ていた女
今は春の嵐を纏っている やがて
花と言う花を散らし生乾きの恋情のむっとした匂いが消えるころ
裸のまま海に溶けて往く
白いブラウスが風の乳房を包んで歩き出すと
波頭はその在りもしない爪先に接吻した
聖女に跪拝する逞しい奴隷たちのように
炎のバラが散る
夜の湧くところで
見つめ合い瞑る
ひびの入った盃に注がれた囁きは錘に加担して
女を乗せた天秤を月へと運ぶ
一つの虚空の焦点
鴎たちは泣いたり笑ったり渦巻いていたが
沈没船は潜水艦となって帰って来た
鍵を壊し内からこじ開けて
女の静脈は青銅の蔦となり意識の日向まで這い回る
ルビーのような嘘をいくつも道標として灯し
鏡を床に零して右往左往しながら死んで往く男の
古い屋敷の手すりのような額の裏に封印を施すために
――自ずと開示できない封書となり果てて
ああ剣のような鍵を持つなよやかな錠前
悪酔いのまま眠れず迎える夜明けの前の一房の青い黒髪よ
《逆襲:2018年4月11日》
自由詩
逆襲
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ただのみきや
2018-04-11 21:55:44
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