難題
ただのみきや

雨上がりに光は音を脱ぐ風に踊りながら
胸に二マイルめり込んだ古い写真機の中で

クスクスを盛り付けるには相応しくない
冷たすぎる大皿を放り投げるまであと一日

蝶々のようにスカートの裾を掴んだ犬が吠えるより早く
少年の口にはレモン形の空洞が詰まっている

重力の薄い落下がある
ピアノの上 二本の指
素足で飛び降りた少女

北を指すのは南を指すことに等しい
ブランコみたいに人は主張と真逆の力に引かれている

蟻の群れが運び出す淡い棺
かな文字よりアルファベットより微細な素粒子のダンス

観察者が像を生む言葉はそれを台なしにする
過干渉な親のように服装も行く末も決めてしまう

寂し気な人魚の鱗が剥がれ落ちる度に
カリンバのような音色が床に転がった

残雪の中やっと乾いたベンチで揺れる小枝の影
人はただ祝祭にあずかるだけ

気まぐれな太陽の愛撫に早々と
羽化した蝶は寄り添う花もなく
のべ広げた翅の斑紋はまばたきもせずに
奈落のような空を見つめたまま

薄いコートに着替えた女性
まだ少し寒い朝チェス盤を挟んでまた一つ
春の女神が冬の女神の手駒を取る

何もない所でもカラスは何か食べている
見えない何かを見つけてはとりあえず食べてみる

がっかりしたように金糸雀が首をかしげた
鍵盤は白と黒の海 静かにお辞儀

パンダは人気者 パトカーは嫌われ者
鯨幕の代わりにチェッカーフラッグを

スーパーの値引きコーナーにラム酒が一本
足首まで濡れている太陽と月と香しい嘘を詰めた壜

自由という言葉から自由にならなきゃいけない
そう宣うあなたを思う存分自由にしてみたい

絡まった紐を解けずに一頭の雌鹿が膝をつく
カタクリの花が咲いていた風は弄ぶ男の手つき

苦痛をフライパンで炒る
孤独をミキサーにかける
テーブルに頭突きする
では転調してもう一度




                      《難題:2018年3月31日》










自由詩 難題 Copyright ただのみきや 2018-03-31 22:00:51
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