水槽
春日線香

縁日で掬った金魚をどこにやっただろうか
庭の片隅、物置の陰のあたりに
古い水槽が転がっていて
水と水草を適当に入れて
そこに放り込んでおいた気がする

誰も世話をしないまま
ただ、気まぐれに思い出して
真っ青に濁った水の中を覗いていた
曇ったガラスの向こうに蠢く影を見て
まだ生きている、とか
思ったりして

追加の金魚を入れたこともある

不思議と金魚が死んでいたということはない
なかったと思う
死んだものもいたのだろうが
濁った水の中でいつまでも生きていた
そういう風に記憶に残っている

いつまでもいつまでもそれが庭の隅にあった
雨が溜まって水は心配いらなかった
雨水と金魚
枯れかけて茶色と緑が入り交じった水草
夏でも冬でも
一年を通してずっとそうだった

時々、思い出す
あの水槽はどうなったのだろう
もうあるはずはないのだけれど
今も必ずどこかにある
雪が積もった冬の朝などに
布団の中で寂しく思い出したりする


自由詩 水槽 Copyright 春日線香 2018-03-28 22:40:24縦
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