雪どけ と(一)
AB(なかほど)

戸走りに冬越飛蝗 奥間の灯


冬越し

この頃 冬といっても
僕の国や
何も知らない人達の国では
ギリシャ世界のアネクメーネのように
どんなに寒くても
明日への蓄えがなくても
火の点し方さえ知らなくても
飢えることはなく
凍えることもない
そして夜の静寂の力に
体を強張らせることさえもない
昨夜  
玄関の引き戸を滑らすと
どこからか冬越しバッタが飛んで来て
奥の方からうすく漏れる光に
恍惚の目を滲ませていた
六十年ぶりの大雪の後の雨に
温もりを感じて出てきたのだろう
今 僕らが
命を削って求め続けている物も
このわずかな温もりと光ほどに
真実に近いものであれと願う



戸走りに冬越飛蝗 奥間の灯


    
 


自由詩 雪どけ と(一) Copyright AB(なかほど) 2018-02-03 01:36:53
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