遠泳
たもつ



食べかけのスイカがもう
夏に生きる虫のように臭っている
庭に埋めなきゃ
そう思ってサンダルを履いたのだが
シャベルが見つからない
春先に何かの花を植えた時には確かにあったはずだ
スイカを入れたビニール袋の隙間からは
相変わらず夏の虫の臭いが漏れてくる
庭に埋めなきゃ
代わりのものを探す
履きつぶして放置されたままの靴のかかと
植木鉢の角
ほうきの柄の部分
多分どれを使っても穴を掘ることはできるだろう
けれど自分を満足させる穴を掘ることができるか
その自信が持てない
近所のホームセンターまで買いに行く
歩こう
歩く、サンダル
が少しブカブカで足の甲の部分が擦れて痛い
暑い
やわらかくなったアスファルトの感覚
もしかしたらやわらかいのはサンダルの底かもしれない
それとも自分の足の裏?
いや、やめよう
確かめなくてもいいことをたくさん確かめ過ぎた
庭に埋めなきゃ
ビニール袋の隙間から漏れる臭いはますますきつくなる
クラクションを鳴らされてとっさに避ける
よろける
体勢をを立て直してまた
歩く
庭に埋めなきゃ
ホームセンターの駐車場を抜ける
車は少ない
自動ドアが開く
涼しくて良かった
何人かの人とすれ違う
その度に左手に持ったビニール袋に視線が注がれる
ビニール袋
虫のような臭い
隙間から
埋めなきゃ
二番目に安いシャベルを手に取る
何の金属だろう、ひんやりと手に冷たい
数分後すっかりぬるくなったこのシャベルで
穴を掘る自分を想像してみる
今一番大切なことはいったい何か
そしてそれは今一番しなければいけないことと
必ずしもイコールではない
やがて埋めたところから
スイカの種が発芽するかもしれない
でもどうせ
雑草か何かと思って誰かが引っこ抜くんだろう
それはきっと自分
レジへと向かう





自由詩 遠泳 Copyright たもつ 2005-03-17 17:29:53
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