夜の歌
由比良 倖

夜が暗いなんて嘘ばかり。
私には何か、夜が照るほどに、
蠅の羽の輪郭のような
寂しい嘘のような気配がする。
……私の魂はここには無い。

秋になれば世の中の一般論は薄れ、
遠からない世界の呟きに
たぶん、誰もが耳を澄ませます。

私の心は旅に出ました、
あなたに送りたい言葉を、
他の人にばかり向かって使うので、
言葉を使うたびに寂しいです。
言葉と言っても「これ、いいね」とか
単純なことなんですけど。
そして、あなたの不在を、
冷たく、心地よく感じていることも
積極的に認めるのだけれど。



ここではノートと葉っぱの匂いがします。
煙草と空気の匂いがします。
丸いトンネルが宙に浮かんでいて、
私はそれに触れられる気がします。

遠からない世界の呟きに、
たぶん、みなが耳を澄ませる頃、

私は、生活や雨の音を、
遠い世界の歌のように聴いています。


自由詩 夜の歌 Copyright 由比良 倖 2018-01-27 12:42:19
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