うさぎと折鶴
あおい満月

おかあさん、と呼んでも消え入りそうな
真っ暗な林のなかにいる。お母さん、あ
なたが撫でた頬のぬくもりが、白い月の
輪郭をなぞっていく。あなたのもとへ帰
りたいと願っても、月の光を頼っても、
あなたのもとへは帰れない。うつむく私
の目の前を金色の光が横切っていく。何
だろうか。それは、一羽の、身体が金色
をした鳥だった。鳥は心臓のかたちを描
くように私の周りをとびまわり、私の肩
に止まって囁きかける。(お母さんのもと
に帰りたいの?)私が頷くと、鳥は大きな
七色の孔雀になって、(私の背中にお乗り
なさい、お母さんのところまで連れていっ
てあげましょう)孔雀の背中から見渡す夜
の世界は、月の光に身籠られた小さな卵
が無数に光輝いていた。そのひとつのな
かに、お母さんがいる。そのとき、見覚
えのある家の明かりが見えた。(あそこで
すね)孔雀のことばに、ありがとうと言っ
て、私は家の扉を開けた。家のなかは明
るかったけれど、どことなく寂しかった。
おかあさん、呼ぶ声に呼応して、テーブ
ルに突っ伏して眠っている彼女の寝息の
手のひらには、私が幼い頃大事にしてい
た、小さなうさぎのぬいぐるみが握られ
ていた。私は金色の折り紙で鶴を折って、
その横にそっと置いた。


自由詩 うさぎと折鶴 Copyright あおい満月 2017-12-20 04:41:17
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