春のスケツチ三題
石村





   Ⅰ

わすれてもらへるなんて
うらやましいことです

たれの目にもふれず
こころのうちに咲き
たれに憶えてもらふこともなく
たれにわすれられることもなく
時のはてにいたるまで
風にちひさくゆれつづける
この花々のうつくしさ
しづけさ と

くらべてみてください


   Ⅱ

山あひの駅にはなつかしいひとたちがゐる。

ホームのベンチで涼しげに陽ざしを浴びながら
お弁当をひろげて
汽車がくるのをまつてゐる。

その路線は二十五年前に廃止されたと
どこかの誰かがきめたらしいが

この世がほろんだ頃に汽車はまた来るとみな知つてゐるので

たれもあはててはゐない。


   Ⅲ

おろかな ひとの子

己がこころのうつくしさに
すこしもきづかない





(二〇一七年三月十九日)




自由詩 春のスケツチ三題 Copyright 石村 2017-10-13 08:56:28
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