Ⅰ
わすれてもらへるなんて
うらやましいことです
たれの目にもふれず
こころのうちに咲き
たれに憶えてもらふこともなく
たれにわすれられることもなく
時のはてにいたるまで
風にちひさくゆれつづける
この花々のうつくしさ
しづけさ と
くらべてみてください
Ⅱ
山あひの駅にはなつかしいひとたちがゐる。
ホームのベンチで涼しげに陽ざしを浴びながら
お弁当をひろげて
汽車がくるのをまつてゐる。
その路線は二十五年前に廃止されたと
どこかの誰かがきめたらしいが
この世がほろんだ頃に汽車はまた来るとみな知つてゐるので
たれもあはててはゐない。
Ⅲ
おろかな ひとの子
己がこころのうつくしさに
すこしもきづかない
(二〇一七年三月十九日)