藪 より
沼谷香澄

すれ違うバスに手挙げる運転手その手袋に染み付いた夏

図鑑開けばマツヨイグサの花の上カミキリムシが交尾したまま

くねくねとうるさい耳に触れながらオレンジ色の雲を見ていた

浜道の路肩にタイヤ乗り上げる名を知らぬ浜選んであなた

夏山の緑 緑はこんなにも得体の知れぬものだったのか

アスファルトの上を覆った熊笹に触れてもいない脚がかゆいの

天井は青空だったああ待って、雲の部分に虫が死んでる

ミュールの泥が落ちてなんだか嬉しくてベッドの上を歩く。ざくざく

カーテンを開けてみようよ目隠しの板が癒しの香を放つでしょう

くるいだす海の色粒 太陽が刻一刻と意地悪になる


初出: Tongue 第1号 2003年10月12日発行 原文縦書


短歌 藪 より Copyright 沼谷香澄 2017-10-11 19:39:26
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