壁にも 空いた、うすぐらい
光冨郁埜

壁にも 空いた、うすぐらい
 あることに気づかれず
探せば見つけ出すことができる
半ズボンが壁から抜け出してくる
小学校のひび割れた校舎
 蹴られる背
水の張った校庭
町工場の錆びたトタン
敷地のバラ線が絡まり
ペンキ臭い鉄骨の体育館
 頭から落ちる床
台風の後の空き地に朽ちたブロック
住宅街近くの忘れられた防空壕のセメント
工事現場の貯水槽のシルエット
公園の古い壁に
 ひとりでボールを投げつづける
身をすぼめてくぐり抜け
たしかな光のほうへ抜けようと
 砂場でみなに囲まれて踏み続けられ
胸にも 空いた
見ることもできずに
望んでもふさぐことが難しく
さとるに語ることができない
気づくよりも重くなった体をひきずって
 叫ぶこともできずに唇をかみ
己のやせた胸へと戻っていく
ただこもってしまう日々にまたひとつ空いていく
いつもは隠れている
ふとしたときにその向こう岸をみせてくれる
草地の犬が背をまるめる
壁にも 空いた、うすぐらい
夕暮れに団地に帰っていく
行き場のないランドセルの背

天気雨がふりそそぐ、塀に囲まれて
ジャケットの襟をたて、ゆっくりと天を仰ぐ




自由詩 壁にも 空いた、うすぐらい Copyright 光冨郁埜 2017-10-02 22:36:15
notebook Home 戻る  過去