茶色
アンテ


茶色がとてもきれいな
マンションだった
フローリングも
壁も
キッチンも
なにもかも

わたしのマンション
自分で見つけて
自分でなにもかも整えた
わたしの居場所
わたしだけの部屋

お帰りなさい
今日は早かったのね
玄関で出迎える
よく陽に焼けたあなたの笑顔
靴を揃える
スーツをハンガーに掛ける
みんな茶色
あなた お食事にします?
うす茶色のエプロンをかけて
こげ茶のスリッパをはいて
なんて幸せ

茶色の洪水
どうしてこんなに
きれいだって感じるのか
知らなかった

茶色の瞳で
わたしを見ている
あなた
なにも聞こえない
なにも聞こえない

空っぽの午後
お茶を飲んでいると
時々胸が締めつけられる
間違っている
だれかが言う
幸せならいいじゃない
だれかが言う

わたしの肺のなかで
茶色に染まった
空気が
降り積もって
重ね塗りして
わたしの回りじゅう
茶色に染めていたなんて
知らなかった

わたし
幸せじゃないの

気持ち悪くて
吐いた
茶色いどろどろしたものが
床に広がって
鏡に写った
茶色い女が
叫んで
茶色い腕を伸ばして

破片



わたし
幸せじゃないの

家財道具一式
リサイクル屋さんに引き取られていった
あなたは困った様子で
知らない人に連れられて出ていった
行き先のないものが
ひとりだけ残されて
ぺたんとフローリングにすわっている
赤がとてもきれいな
マンション
ぽたぽたこぼれ落ちて
赤い涙
床を染める
わたしの部屋
真っ赤に染まっていく




自由詩 茶色 Copyright アンテ 2005-03-13 04:23:06
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