東京パック /1997-2007
AB(なかほど)

抱きしめたもの
全部ひっくるめて
冷蔵便で送るよ



たとえば

 大田・桜公園

擦り傷だらけの 谷やんの
分厚い両手が 切るネジは  
ミクロの世界で 刻まれて
マクロの世界へ 飛んでゆく




たとえば

 品川・しみ

ショーウィンドーの中の僕が
泣いている

Tokyo Tokyo

しばらくは
君の横顔のせいで
来れなくなっちゃた




たとえば

 港・屋上

流通団地の倉庫の屋上から
東京湾花火が見え、
耳を澄ませば

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僕は腕を広げ
抱き締めるように
蹲り

僕の港は
ここなんだ

と言い聞かせた




たとえば

 中野・タンポポ

「さてさて

私がこの農芸化学の道を歩いてこれたのは
花屋のエミちゃんが好きだったからです。」


    正直にゃ 語れないな


「それはまるでタンポポのような、」




たとえば

 文京・お稲荷さん

いつの日かの憧れであった
本郷で道に迷った

しめしめと にたり顔で
坂道
のぼるとお稲荷さん

帰りたい

帰れない

僕の場所でない場所に
帰りたい

もう帰れない




たとえば

 足立・魚屋

体育館横の自転車置き場で
剣道部の練習の声が聞こえてくると
僕は
もう夕焼けを待っているように空を見上げ
商店街の方向へ歩き出す
魚屋の前ではきっと
夕焼けが足りないと 
うつ向いてしまうのだろう




たとえば

 江東・くさや

ビールと合うのかな
と言ってるそばから
くさい くさい
といいながら
彼女はくさやを千切って
笑って食べた

戻って来た理由も
どうでもいいのかもしれない
僕も
ほんとにくさい
と笑って食べた




たとえば

 江戸川・花火の夜

君が百本の小説を乗り越え眠るころ
僕は一握の詩の前で童貞のままで
国際色の喧騒にしがみつきながらも
同じ月の夢に 

ニャー
   と哭く




抱きしめたもの



抱きしめたもの
全部ひっくるめて
冷蔵便で送るよ
君にとってはもう
要らないものばかり
かもしれない




   


自由詩 東京パック /1997-2007 Copyright AB(なかほど) 2017-08-16 21:47:25
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