復興
葉leaf

巨大な沈黙が降り注ぎ、忙しなく部分同士が交信している大地は惨劇に見舞われた。大地には至る所に中心があり、そこから水平線や勾配が限りなく伸びていき、無数の表現を作り出していた。大地が低く降りていくところには、もう一つの大地、すなわち海が流動しながら別の夥しい相貌を生み出していた。沈黙はその衝動と禁止の葛藤ゆえに激しく大地の交信を攪乱し、大地は互いに音信不通となり、絶望的な孤独に耐え切れず少しだけ身震いした。大地に寄り添う海は大地の稀少な孤独に驚き、少しだけ髪を揺らした。

海岸には堤防が建設されていた。堤防の手前には延々と防災林が植樹されていった。たった一枚の陸地であっても道路によって複雑に区切られ、さらに宅地、田地、畑など用途によってそのうわべの形状は様々だった。様々な種類の土地が文様のように配置され、そこに行政の復旧のための事業が複雑に入り込んでいる。陸地は一枚の複雑な土地の織物だった。その織物の上を無数のダンプが土砂などを運んでいく。

タクシーの運転手たちは死んだはずの人々を当然に客として遇した。死者たちは生きた衣をまとい我々を訪れ、我々は死者たちの言葉と包み合った。死者は穢れていず聖なる存在でもない。我々を堅く構成する隣人であり現在である。若い娘であったり老いた夫であったり、死者はまだ詳細な命を保っている。死者は前触れもなく我々に呼び掛け、その呼応が我々を組み替え続ける。

子どもが一人泣き叫んでいた。辺り一面の荒野で泣き声は途中でかき消された。子どもは人類の誕生から滅亡までずっと泣き叫び続ける。子どもの泣き声は地上のいかなる惨事とも無関係だが、いかなる惨事とも並行する。人類の誕生から滅亡に至るまで途切れなく続く根源的な惨事を泣き叫び続けるのがこの子どもである。人類の誕生とともに、歴史の申し子であるこの子どもは荒野に降り立ち、歴史の根源で惨事を解体し始めた。

国道6号線沿いのコンビニには朝6時になると除染作業員たちを乗せたバスが停まり、作業員たちの買い物でごった返す。体格がよく、髪を染めたり刺青を入れたりしている作業員たちは、鋭い口調で話しながら機械的に買い物を済ます。作業員たちの威圧力が狭いコンビニをいっぱいにする。彼らは復興のためではなく賃金のために働く。その純化された莫大な対償関係によって復興は担われている。

巨大な沈黙が去った後、大地は地上の全ての些細なものたちと交信を始めた。さんざめく微笑が地上のあちこちでほころび、それらは緊密な回路を作り通電した。大地の表情は人間たちにより少しずつ新しいものへと変化し、新しい声で新しい物語をつぶやき始めた。大地の部分たちはまた別の部分たちへと改組され、人間たちと無言の語らいを始めた。根源の子どもは荒野で泣き叫び続け、その泣き声には人々の嘆きや喜びや感謝が同期していった。この復興の時期、根源の子どもの泣き声は極めて豊かに変奏され、その原初のエネルギーは著しく増幅されて海へとのびていった。



自由詩 復興 Copyright 葉leaf 2017-07-17 11:05:50
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