水鳥の夢
春日線香

木の高いところに骨がかかっていて
鳥が面白くなさそうについばんでいる
手にしたほうきでつついて落とすと
地面に落ちたそれは乾いて白い

夜中に夢から覚めて
台所で水を飲んで寝に戻る
さっき上ってきた坂を降りて
奥まった界隈の屋敷裏に入る
すると先程の骨はもう立派に人の形になり
ぼろ布を着込んでうろうろ歩いている
あまり動き回ると関節が外れるよと言っても
自由に歩けるのが嬉しいのか
いつまでもやめない

やがて縁側に招かれて茶など飲む間に
骨の姿も見えなくなった
主人によると由来がまったくわからず
ずっと以前からこの家にあった骨とのことで
いつか供養してやらねばと思っているうちに
家が没落してそれどころではなくなった
自分もいつしか死んでしまって
しかし幸いにも縁故の者のおかげで
墓に入ることだけはできましたという
穏やかに話してくれたが
それなりの苦労はあったのだろう

屋敷を出てしばらく歩くと川に橋がかかり
岸辺にぼろ布をまとった骨の姿がある
水鳥のように頭を浅瀬に突っ込んで
魚か虫かを捕まえるのに熱心なようだ
なんとはなしに眺めていると
どうやらそれは生き物を捕まえているのではなく
円い石を口で拾い集めて
川沿いに積み上げているらしい
いくつもいくつも
こんもりとした小山がきれいに並んでいる

そこでようやく目が覚める
窓の外は薄曇りでほんやりと暗く
妙に静かな朝である
夢の脈絡を整理しながら
自分で自分を供養するようなことが
どの世の中にもあるのだと両手で顔をこすり
しばらくそのままでいる

一羽の鳥が陽の光を浴びて
木立の上を飛んでいく


自由詩 水鳥の夢 Copyright 春日線香 2017-05-27 23:47:43
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