誰もいない
末松 努

ほんとうか
疑うことは
確かめるための第一歩
だった

しかし
うたのおにいさんは
うたのおねえさんの
秘密を守ろうと
画面からも
現実からも
その姿を
全自動システムで
消去した

  甘いものには
  厳しい目を向け
  厳しいものには
  甘い眼差しを

地下水脈が
着色料に濁りきったころ
小高い丘に立つ
三角屋根のお菓子の家の扉が開かれると
そこは群がる蟻たちで
真っ黒になっていた

ほんとうか
リポーターが
一介の物書きを追いかけはじめる
事実を探ることも捨て
蟻のように群がるマイク
狭き部屋に集い
我々の勝利だと言い残して
帰社する記者たち

ところが待ち受けていたのは
誰もいないことを理由とする拒絶だった
マスなコミュニケーションは
いま勝利して喜ぶのは誰だという発想を守り
敗北宣言する

誰もいない
変わるものが誰もいない
代わるものが誰もいない
ほんとうか
そう問う声に
答えるものも
応えるものも
誰もいない

人工甘味料が
三角屋根のお菓子の家から
地中深き蟻の巣へ次々と運ばれ
水脈はいま
コーラとなり
そして
地上に吸い上げられては
飲み干されようとしている

誰もいなくなる前に
歯が溶けていないか
鏡を見て
都市伝説を
確かめてみよ
身体の錆びつきは
簡単には
見えないもの
だから


自由詩 誰もいない Copyright 末松 努 2017-04-11 18:02:18
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