graduate
青の群れ

貰った花束をスマートフォンで切り取ったり
取れてしまったボタンを小さな箱にしまいこんだりすること

連なっているはずの港区の海の匂いは
知っている海と少しだけ違うような気がした
平坦につづくはずの、また別の生活への入り口
見慣れた景色から抜け出す電車に乗って

いつのまにか慣れてしまう新しい家の壁紙の匂い
眩しい部屋に生活用品の影ができていくこと
はじまりは意外なほどにあっけなく過ぎるけれど
小さな糸くずを拾い上げて愛おしむことはしない

古い呪いから抜け出して
少しだけ質量が減った自分の身体に新しい糸を巻きつける
地面と肉体を繋ぐ糸
これは永遠の別れではないから
きっとまたどこかで再会することができるけれど
できることとすることとが違うということも
わたしたちは知っている

明け方や、月曜日の雨や、隣の家のドアの音
今日もだれもが生活している
捨てられないもので散らかった部屋も
母親に捨てられてしまう思い出もそこにある

季節の変わり目に少し前に使っていた柔軟剤を思い出したり
まだ開封していないダンボールの中から裁縫箱を取り出すこと

頼りないお守りをたくさん束ねてあげる
祝福をきみに


自由詩 graduate Copyright 青の群れ 2017-03-27 14:53:55
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