建設機械/ブラック/朝/五体合体のロボ/希望
TAT
雨上がりの今朝
出窓にノートを置いて書き物をしていたら
お隣に広がるガレージと倉庫では
レンタル重機屋さんの朝も始まっていて
不機嫌そうに油を差す中年男性や
出勤してきた事務の女の子や
一斗缶を囲み
タバコを吸っている一団が見えて
ふとコーヒーマグを取ろうとした手も止まり
何だか啓示のようにその風景に見入ってしまった
やがてガシャガシャと大きな音を立ててシャッターが開き
ユンボやフォークやクレーンが
動物園のように本日の命を授かって動き出す
ラジオ体操まではもう少し時間があるのだろう
取るに足らない
代替え可能な
どこにでもある或る会社の日常風景だ
だがどうだあの
朝露に濡れながら黄金に光るユニックの雄々しさは
王のようなユンボの立ち姿は
三十年も前に弟が百貨店の床に寝て叫んでせがんだロボット司令官の事を僕は思い出す
朝にそぐわない女性ドライバーの嬌声
バックするランプの光
指示して呼ぶ掛け声
あそこで足場資材を下ろしている彼等は
もしかして元は地元の同級生か何かかもしれないな
あのまっすぐにトラックに向かってゆく男は僕みたいだ
何だか無駄にぎらついていて
周りは全員敵ですという顔をしていてさw
事務所のガラス窓の向こうの営業の男はボーっとした顔で
PCが立ち上がるのを待っているんだなきっと
カーディガンを着た女の子は
密林に迷い込んだリスかウサギのように
A4を一枚持ってパタパタと
機械のある倉庫の奥に入っていった
きっと南の果てのゴリラからのFAXで
ゴリラは森に攻め入って来た巨神兵と戦う為に
五体合体の大型ロボットを急遽レンタルしたくなったんだ
今朝になって急に
ちょこちょこっと素早く前髪を直したという事は
気になる人が倉庫の中にいるのかもしれない
そういう
自分に関係は無い彼等の
無垢な営みの全てが
健気で真摯な生活の全てをなぜか
(それは勿論、教科書のような百点ではない。そこには陰口や横着や僅かばかりの悪意や内緒の恋等も含まれているにせよ)
愛おしく眺めている自分が居た
それは入ってはゆけない絵の中の世界のようだ
朝になって上がった雨は匂いだけをそこに残していて
いや
もうひとつ
油混じりの七色の水たまりも幾つか残している
こんな日は何だか希望を信じてみる気になる
世の中にたくさんいる引きこもりも
二~三人ぐらいは今日出てくればよいのにね
雨上がりの今日
自由詩
建設機械/ブラック/朝/五体合体のロボ/希望
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TAT
2017-03-27 08:20:22