再サイレント
竜門勇気

ざぶんと音立てて
かわのなか
跳ね橋の底
見上げてる

気持ちのいいことなんか
気持ちが悪いし
誰かを好きでいることは
自己嫌悪への入り口
後ろでドアが閉まる
慌てたようなふりをして
振り返るようなふりもする
分かってたような顔もする
僕は君が好きなだけだったのに
今は自分が嫌いなだけみたいだ

暇を持て余した
ステープラーが一匹
机の中で死んでる
ちゃぽ、と音立てて
石の下に逃げ込んだ

今が良ければいいんだ
そんなことを思うのは
今が悪いからだ
体のどこが壊れてて
心のどこが不自由か
悲しいけど分かっちまうんだ
野良猫の後ろ姿を見てた
歩き去る仕草が君に似てたから
足跡が花のように見えた
星空は汚れた鏡に見えた

あぶくを身にまとって
コーヒーミルがほどけてる
少しずつなら治るだろう
願いだけを口にする魚

世界の果てにこの前たどり着いたんだ
さっきまでそこそこ高い酒だったものを
ピーナツの破片と一緒に捨ててる時に
キラキラしてきれいだったよ
でもあれだな
家の便器の中にぶちまけながら見たときは
いや、やっぱり
キラキラしてきれいだった

涙がこぼれてる?
その寸前?
滲んだりはっきりしたり
机の上で踊る羽虫を見るみたいに
諦めに似た愛着が背中から僕を抱く
缶詰の丸さは太陽みたいに丸くない
握った拳の丸さは月夜みたいに丸くない


自由詩 再サイレント Copyright 竜門勇気 2017-03-21 10:49:25
notebook Home 戻る  過去 未来