くにの記憶
白島真
水になってひそむ
死んだ者たちの通ったこのほそい水系に
官能の色彩はすでにない
光りの粒子のように時は流れ
序章のように生誕の時は流れ
星が囲んだ戦場につめたい炎の舌がみえる
水鏡に映るか くにの記憶
気おくれした日の腕時計 秒の歯車が
ビルの狭間 逆さに回転しはじめた
地鎮祭を終えた人々が
高層硝子に反照された夕暮れを帰っていく
鎮まったはずもない石、土たちが
全ての感官を耳にしてせり上がってくる
わたしの水位が結界にあふれ
ものの形がみえなくなる
そのひとは
額に鏃を突き刺し
武具をざはざは鳴らせて
交差点の青い翳を雲のように渡っていった
曾祖父やそのまた曾祖父の
青白い手がしたした伸びて
みえない先行きを追い やがてすいと消えた
わたしに似た苦々しい魂は
千年を また
この雲涸れにひそむ