宛名不明
日々野いずる

誰がいるかもしれないダンスホールで
奥底を知っているはずの
あなたが無邪気にはしゃいでいるから
私は何にも言えなくなって
黙り込んでシャンパンを飲んでいるだけだ
音に体を揺らしもせずに

疲れ切った体を沈めたベッド
目を開けがたい微睡に微笑まれて
暖かく拘束された手足
眠気のくちづけが落とされ
意識が無明に向かっていく

体の表面を撫でていったすきま風が
遠くの地で渦捲いて土ぼこりを上げている
ちりと埃に取り込まれ薄汚れた手紙が
散らばる水たまり
行き先を溶かしてしまい

起きたときにきっと次の朝がきて
その夜に溶けた郵便の思いが宛先不明て還ってきて
ここからどこにもいかないでって言っている

手紙、読まれずに私の机に積まれて
供養の代わりに風化していき
いつかすべて、汚い、って捨てる未来

そしたら私は楽しくあなたと手を取り合って
ダンスを踊って、音に揺られていけるのでしょう
きらきらと色とりどりのライトで目を眩ませて
暗闇は一層暗く沈み
きっと振り返りもしない



自由詩 宛名不明 Copyright 日々野いずる 2017-01-04 19:21:32
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