棄てられたモノローグたち
宣井龍人
Ⅰ
私は人間ではない
生物でさえない
生きているのに
Ⅱ
私は一本の直線だった
貴方のことを知りたくて三角形となった
私のことを知りたくて四角形になった
いくら角が増えても角(つの)が増えるだけだ
私は円になりたかった
Ⅲ
今日のご飯も哀しみから生まれました
味付けの振り掛けは涙です
お腹いっぱい食べました
私の体は昨日の悲しみで満室です
でももっと食べろという声がしました
Ⅳ
夢にドカドカ入り込んで来たのはつまらない奴やどうでもよい奴ばかりだ
たぶん私が土足で踏まれるようなつまらないどうでもよい奴だからだろう
つまらないどうでもよい奴は結局つまらないどうでもよい奴というわけだ
Ⅴ
兎が月夜を飛び越える
夢が野原を跳ねている
私は地を這う亀
夢を見ていては駄目だ
今日も一歩を踏みしめよう
Ⅵ
そんなこと言ってももう疲れたよ
と身体が言う
でも働かなければ食っていけないよ
と脳が言う
あんただって指令がめちゃめちゃだよ
と身体が言う
脳は苦し紛れに黙り混む
結局みんな反乱寸前だった
Ⅶ
私は道を1歩1歩踏みしめている
休むことなく昼夜を問わず歩いている
決して振り向くなと言われている
それが歩き続けるルールだそうだ
だけど私はさっき約束を破った
もうどうでもいいやと思ったのだ
足跡などは何もなかった
踏みつけたのは幾人かの苦しみや悲しみ
私は私で多くの人々に踏みつけられている
それらの人々はまたより多くの人々に踏みつけられている
たぶん幸せは数えきれない苦しみや悲しみの上に咲くのだろう
だが頭上はるか高く自由に飛び回るのは無数の鳥たちであった
Ⅷ
見渡す限り子供達がいません
屋根裏にも床下にもいません
じいさんばあさんばかりです
お互いのしわはお互いの鏡です
奥歯に物が挟まった同じ顔です
笑い声は一足先に納棺しました
私も名も無い塵達のひとりです
Ⅸ
長方形や正方形や三角形
汗をかき苦しげに転がっている
床に着くと彼らは夢見るのだ
明日はまるくな~れ