◎救済の作法
由木名緒美

「その炎は陰影でしかない」
そう言って私の指先を吹き消した
あなたこそが、明かりを灯したというのに
たおやかさは無機の温もりを織り上げて
巻糸は摩擦熱を怯えて逃げ惑う

潮流の回遊に永劫の瞑想を見出し
冷えた魂は彫像の輪郭で静止を現す
投げ掛けられた救いの示唆は
あまりに明朗な語彙をなぞり
示された地図に意思を預け
その誤差を測るには喪心におもね過ぎていた

抱き留めながら 慈しみながら
あなたの芯柱に潜む炎は
果て無く上昇し 霹靂へきれきの眼球に転化する
求めるものは 到達されないくさびそのもので
私はただあなたの求心力に逆らって
傷つきたかっただけだった

夜はその頑ななまでの静穏さで見返し
命を放とうとする者達への共謀を否む
温かな部屋と充たされた食事
それさえも欠けた修辞の一篇に華やぎを手向けられないのなら
生きる作法も 死への矜持も
光とは汚濁に踏み出す意志こそを潤すものなのだろう
足掻くだけ足掻いた果てに灯る終着駅
その街灯こそがこの指先を染めるにふさわしい
一錠を飲めば命拾いする
そんな浅ましい救済であったとしても


自由詩 ◎救済の作法 Copyright 由木名緒美 2016-10-31 00:02:43
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