いらなくないよ
kasai


「さんさい」
ピースサインをしながら
息子はごく自然に鯖を読んだ
うん、君は二歳だ

そんな君は、声を出すようになってから
いつしか「いらない」とよく言うようになった
決まってどこか気に食わない時で
何でもかんでも、とにかく「いらない」

ごはんも
おかしも
お絵かきも
大好きなバスのおもちゃも
全部全部いらないって

君は悲壮な覚悟を抱いた
容易に退くことなど決してない
いらない、と言いながら
ひよこちゃん人形を絶対に離さない
君の決意は固い

そう
君はとても頑なだ
むっすりとして
たまに泣き叫んで
とても素直に、頑ななんだ

そうだな、きっと君は
もっと君の深いところにあるものを
君自身が掴めそうにないものを
消したいのかもしれないな
大人だって、そうさ

でもね、大人ってのは
君より多くの言葉を持っていて
単純に「いらない」とは言わないし
何より、すぐ頑なになることは出来ても
君みたいに、そうそう素直になれないよ

時に、本当はいらないのに
ぐっと飲み込んでしまうこともある
時に、飲み込んだそれが
とても大切になることだってある

今、君が口にする「いらない」には
もっと、たくさんの意味が
込められているのかもしれない
この先もそれを言い続けるのか
僕にはわからない

ついこの間の「おとうさん、いらない」は
本気で泣かされそうになったけど
物心ついた後の「いらない」は
今ほど悲しく思わないかな
どうだろう

いつの日か君は
二歳を終えて
三歳も越えて
指折り年も数えられなくなって
否応もなく、色んなものを捨てていく

そして、どこかに埋もれているはずの
本当に必要なものを知ってほしい
だから、その時がくるまで
なるべくなら、弾かずそっと
傍に置いていてくれるかい

「いらない、いらない」
君がまた泣いている
その度に
いらなくないよ、
そう言いながら、抱きしめる



自由詩 いらなくないよ Copyright kasai 2016-09-28 23:39:53
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