満ちていく
kasai

浅く柔らかい雨がしばらく続いてから
夏の欠片はうっすら馴染んで見えなくなりました
私はその有様を覚えて、新しい『確かめたもの』として部屋の片隅に置きます

『確かめたもの』は割と適当に、ぽいぽいあっちこっちへ置かれます
他にもたくさんたくさん散らばっていますけれど
何だかよくわからなくなっているのもあります
どれも形が似ているようで、その輝き方はまちまちですから
目に見えるきらめきよりも、漂う甘い香りの方が気になります
投げやりに、あるいは大切に置いた『確かめたもの』ほど傷み、腐りやすいのです

私は近寄り、胸いっぱい吸い込み、そして吐き出し
新しい『確かめたもの』として部屋の片隅に置きます
そんなことを繰り返しています
ずっと繰り返しています

そして、日々は穏やかに続きます
たまに憂鬱で
ほとほと迷ってしまって
どこに向かえば良いか分からなくなっても
どんなに笑っても、泣いても、叫んでも
本当は、覚えたくなかったものも
本当は、私こそが消えてなくなりたかった思いも
全部確かめて
全部全部抱きしめて続きます

そうやって、この部屋が満ちていくのだということを
確かめている途中です
私は確かめている途中です

それはきらめきも、匂いも、かたちも手触りもばらばらで
まるで季節の欠片に似ています

だからきっと、いずれ見えなくなる有様を私はまた覚えて
いつか『確かめたもの』として部屋の片隅に置くでしょう

できればそれが夏の欠片と同じように
浅く柔らかい雨に馴染んで欲しいと願いながら


自由詩 満ちていく Copyright kasai 2016-09-20 20:42:10
notebook Home 戻る 未来