にゃんこホアキン
白島真

 
 にゃんこホアキン
 きみの硬直した屍体はぼくを悲しませた
 にゃんこホアキン
 ふさふさした薄茶のふさ毛とふとい尻尾
 ふた色に変わる不可思議な鳴き声
 覚えているよ にゃんこホアキン
 きみはもの言わぬやさしい友人だった
 きみの要求はいつも自然で
 食べたいと言っては
 鮭の空き缶くわえてくるよ 朝五時に
 遊びたいと言っては
 なんでもころころ転がす 朝二時に     
 出たいと言っては
 窓をがたごと 朝四時に
 それでもホアキン!
 きみの硬直した屍体は
 ぼくを呼び寄せた
 真夜中の道端で
 尻尾はにゃんこホアキン
 きみのものだった
 首輪はにゃんこホアキン
 やっぱりきみのものだった
 薄茶のふさ毛もピンクの鼻も
 くらがりのなかで
 たしかに きみのものだった
 痛かったね
 きみのものでなければよかったのに
 それでもちょっとびっくりしただけで
 突然かるくなった体で
 車の尾灯を
 ぷんぷんにらんでいたかも知れない

 ぼくはね ホアキン
 自堕落だよ
 きみの貌はぼくに似ていたそうだ
 悪魔猫 狸猫 ライオン猫
 ぼくはね ホアキン
 きみを愛していたよ 愛しているよ
 クッチャネンコ ふくろう猫 うさぎ猫
 ずいぶん
 たくさんの名前をつけられたものだ
 そうだ ホアキン
 きみの名付け親の長い髪のひと
 泣いていたよ
 愛しいものほど
 たやすく滅び去るのは何故かって
 海を見ながら
 泣いていたよ

 愛するひとと ホアキン 
 きみの軽くなった場所に行ってみた 朝五時に  
 こんな桜吹雪のなかで
 こんな春のいろどりに囲まれて
 にゃんこホアキン
 にゃんこホアキン

 風が
 通り抜けていくたびに
 透き通っていく





自由詩 にゃんこホアキン Copyright 白島真 2016-09-26 07:54:21
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