さらさらと ゆく
葉月 祐

年に一度きりの花火は
雨上がりの夜空に咲いた

濡れた地面から漂い始めた
靄に包まれながら
どん どん どどん
光鮮やかな花が 次々と咲いては 散る

無数の色に輝き 夜を照らす
閃光の群れを眺めていた
今年も綺麗だな と
思っていたけれど

少しして

強まった風に乗って
ここから遠く離れた花火の打ち上げ場所から
役目を終えた火薬の匂いが届いた
目を閉じれば
それはより鮮明なものになり

その煙は
重たい夜空の中を泳ぐ様に流れていて
途中から 花火よりも
煙の流れる様子を眺めていた

僕はただ見とれていた
少し横では
花火がまだ打ち上げられているけれど
それはどうでも良くなっていた


今夜の夜の匂いが
僕の中の靄も 全部さらって行った
それだけでも
とても素敵な夜だった

空気はまだ湿っているけれど
心は軽やかで 心地良い
こんな楽しみ方もあったんだな


帰り始める家族連れの
話し声や足音を耳にしながら
僅かに残るその匂いを感じて

もう一度 確かめる様に
僕は深く息を吸う
夏の終わりの空気で 静かに体を満たした






自由詩 さらさらと ゆく Copyright 葉月 祐 2016-08-16 23:44:10
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