中野~高円寺探訪記
服部 剛

「中野ぉ~中野ぉ~でございます」 
ぷしゅー…っ ドアが開いたホームには
なぜかお巡りさんが、目を配らせている。
今日は伊勢のサミット最終日 オバマさ
んは広島原爆ドームにて黙祷する――。
賛と否の、意見はふたつに分れそうだが
アメリカ初の黒人大統領の置き土産は、
日の本の国の時代の裂け目に新たな風を
呼ぶだろうか?

   *

人々賑わう中野駅。線路沿いを歩いてい
たら、眼鏡に野球帽のとってもとっても
小さいおじさんは 不思議なほど満面の
笑みを浮かべ 散歩者の僕を、横切った。
(その時…微かな風は起こった)
今年5才の我が子はダウン症児で歩きも
話しもしなくとも日々楽しげにぽんぽこ
太鼓を、叩いてる――もしや、幸福は、
個人の内面に依るものか?

   *

生まれて初めての散歩道を歩くのだから
線路沿いの道をあえて、反れて…反れて
…そこは少々寂れた昭和の匂いの商店街。
煎餅屋さんにふとん屋さんに輪業屋さん
――平成28年の我が国にレトロな風情
の商いよ、庶民の心を温めよ…店も減っ
た小路を抜けて、曲がって、現れた小さ
い団子屋の名前は「渥美」…寅さんとは
関係はなかろうが、どうやら旅人気分に
なってきた。

   *

調子にのって加速する我が歩行。いつの
まにやら、高円寺駅を通り過ぎ、ルック
商店街で風を切る。イタリー・フランス
ものの古着屋さんから、水煙草屋さんを
通り過ぎ…カフェ「分福」の店前に立つ
小さい黒板に白いチョークでメニューが
書かれている。電球でほの明るい満席の
店内を硝子越しに覗きつつ…我が胸に、
ひとつの願いは萌え出ずる。

(朗読会を主宰するミキさん・ちひろ君
と久しく再会する今夜、中央線の音響く
高架下のライブスペース「無力無善寺」
のドアを開いたら、受付のふたりと握手
して集う皆で「福」を「分」けたいなぁ)  






自由詩 中野~高円寺探訪記 Copyright 服部 剛 2016-05-28 23:59:59
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